ゴミ箱から失礼いたします

ゴミ箱から失礼いたします (MF文庫J)


誰もいない静かな教室で一人佇んでいると、ふとそこにあったゴミ箱になんだか入ってみたくなってしまった―――。
突拍子も無さ過ぎる出来事など日常茶飯事なライトノベル界から見れば、この程度の設定は特別珍しいものではありません。ただ違うのは、自分もふとした拍子に主人公と同じ気持ちを持つ事があるかもしれないという、完全なフィクションとして割り切れない身近さを感じるところ。馬鹿な行為だといくら理性が常識的な判断をしても、私の小さい頃に押入れや段ボールに隠れたときの記憶と感覚を否定しきる事は難しかったです。私には魔が差してしまったとしか言いようのない彼の行為を心から軽蔑する事は出来ないでしょう。
それゆえ、その後彼がゴミ箱から抜けられなくなったときに私の心に去来したのは、理不尽に課せられた試練に対する悲しみ!おお、何故彼はゴミ箱男にならなければいけないのでしょうか!
ただ真面目な話、本人だけでなく周りのクラスメイトも決して無関係でいられるわけでもなく、むしろ全員が無理矢理巻き込まれる深刻な事態でもある感じがします。ゴミ箱というのは明白なハンディキャップ。歩くことは出来ないし、見た目も人目を引き過ぎる。間抜けな姿とは裏腹に抱える問題は深いです。
お話には主人公だけでなく同じような発作的な奇行を抱える数々の登場人物がいて、きっと誰もが何かしら感じているだろう世の中に対するハンディキャップを分かりやすいくらい強烈に、でもどことなく笑えるように描き出している辺りの感覚がスキ。彼らのどの悩みもけっこう身近で、それでいて深刻です。
ただ、ライトノベルにお約束のように入っているバトル展開が憎らしい!ろくに動けもしないゴミ箱男が殴り合いをする必要なんてないじゃないか。ゴミ箱男が抱える問題は暴力で解決する類のものじゃないですし。…ゴミ箱に変身した時は腹筋がいかれそうになったけどね。
全部が全部良かったわけじゃありませんが、結構面白かったなぁという感じの今月のMF文庫一冊目。うむ、幸先良いスタートだ。