【初野晴】漆黒の王子 (3日目)

漆黒の王子 (角川文庫)


面白かった!けどなんか物足りなかった!

物語の基本は組員の連続不審死を追うヤクザ達が奔走する「上の世界」と、記憶喪失で街の下水道に倒れていた謎の人物が<王子>他6名のホームレスに助けられるところから始まる「下の世界」、この二つが並行して進んでいきます。この二つの世界を関連付ける物の一つが「ガネーシャ」。上の世界ではヤクザ達に脅迫メールを送りつける人物として、下の世界では謎の人物が微かに覚えていた記憶の中で、それぞれ「ガネーシャ」という名前が登場します。二つのガネーシャはいったいどういった関わり合いを持っていくのか、実に先が気になる展開が続きました。
それにヤクザ達の抗争が凄まじい。原因不明の不審死が続く他に、拳銃で刃物で拷問でと総力戦の如く組員が消耗していきます。死にまくりです。バイオレンス成分は十二分にあると言えるでしょう。むしろお腹いっぱい!
ミステリーの方もしっかり完備。ガネーシャからの暗号めいた脅迫メールにはメッセージが隠されており、受信件数が増えていくにつれて解読するヒントも増えていきます。こんな手の込んだの解読される方が稀なんじゃないかと正直思いましたが、見事に真相に辿り着いてくれるので推理成分も満たしてくれています。
じゃあそれで満足できたかというと…そういうわけでもないです。「上の世界のお話」と「下の世界のお話」、あと最初の「いじめられっ子と車椅子の少年のお話」の交錯具合がイマイチ味気なかった印象が。もっといじめられっ子のその後が詳しく知りたかった!噂話でその後の足取りがちょっとづつしか分からないんだもん!明らかに重要キャラの風格を持つ<王子>とかもうちょっと出しゃばっても良いと思うんだけど、出番が質素すぎて謎の人物のままで終わった。本当にただのホームレスだったのか。

それにしても壮絶な復讐劇でした。壮絶過ぎて終わりの頃にはもうほとんど何も残っていないときた。人がいっぱい死んだ、思い出も一緒に消えた。何にも無くなっちまったなぁと虚しさ残る最期でした。