【中島京子】さようなら、コタツ (1日目)

さようなら、コタツ (集英社文庫)
部屋の数だけ人生はある。人生の数だけ物語はある。
様々な部屋に住む様々な人々にスポットを当てた短編集だそうです。
というわけで、これからいろんな人のお部屋にお邪魔していきます。いやー、他人の部屋を覗くのは、下世話ですけど楽しいんですよねー。でもちょっと今日は時間が無かったので、一部屋だけお邪魔することにしましょう。
行ってきまーす。

『ハッピー・アニバーサリー』
はーい、こんにちは。やってきました一軒目です。さて、これから覗きにいくわけですけども、どうやらこの部屋には年頃の女性が一人暮らししているらしいじゃないですか。ヒャッホウ!
友人と二人で立ち上げた雑貨のブランドが今日で一年目、仕事を早く切り上げて二人でお食事に行っているみたいですね。だからアニバーサリー、記念日ってことですか。きっと今頃は気持ちよく飲んでいることでしょうね。誰もいないはずなのですが、現在その彼女の部屋で酔っ払っているオジサンはいったい誰なのですか。オイ!何だこれは、情報と違うぞ!
混乱しているところにその二人が帰ってきました。どうやらこのオジサンはこの住人の父親だったようですね。ふう、驚かせやがって。
友人と一緒に帰ってきて玄関開けたら酔っ払ったお父さんですか。これは気まずい!これは荒れそうだと思いきや、友人が寛容な精神を見せてくれたのでこの場は治まりました。
お父さん、仕事を畳むため東京に出てきたらしいですね。それで帰る途中に、近くに住む娘に会いに来た訳らしいです。時代の流れに乗れなかった男の哀愁が悲しみを誘います。
よーし、飲め、今日は飲んでもいいぞ…って寝ちゃいましたか。…このままそっとしておいてあげましょうかね。
娘ももう一人立ちしているようですし、必死に頑張る必要も無いでしょう。御苦労さま。
娘さん東京で気の合う友人も出来たようですし、心配することも無いですよ。ほら、あの二人あんなに仲が良い…。

…あ、あれ、ちょっと仲が良すぎるみたいですね…?キス?ど、どゆこと?
どゆこと…ってお父さん起きちゃダメーー!!

翌朝、彼女たちがまだ寝ているうちに部屋を静かに出ていくお父さん…。外の陽ざしに目をすぼめるお父さん…。
わかります…、どうして朝日ってあんなに眩しいんでしょうね…。