【川端裕人】銀河のワールドカップ

銀河のワールドカップ (集英社文庫)



好きな本 ぼしゅう12月のコメントより。
>一方、後者は青春スポーツ小説です。大変言いにくいのですが、私、サッカーのテレビ観戦が好きなもので、来年はブラジルW杯イヤーだし、オススメするなら、そう! 今でしょと……!!(すみませんすみません)
元Jリーガーのコーチ・花島の視点から描かれる小学生たちが生き生きとしていて、どの子もかわいいです。躍動感があります。スケールの大きな展開に、どきどきわくわく、とにかく興奮します。サッカーをよく知らなくても面白いです。実際、私は観戦だけでプレイは全くしないので知識は無いに等しいのですが、面白かったです。


くるくるさんからのおすすめ2冊目「銀河のワールドカップ」です。熱いコメントありがとうございます。
名前だけは知っているという程度の作家さんであってどんな作風かは経験なし、そして小説ではあまり手に取った事のないサッカー小説とのことで試合開始どくしょ前の興奮は未知数でございます。ただ紹介者さんが「サッカーをよく知らなくても面白いです」と一部フォローを入れてくださっていますが、実はそこだけはほとんど心配していません。なぜなら面白い小説というものは、ルールを知らない初心者でも楽しませることが出来なきゃいけないし、実際出来ると知っているからなんですよね。だから私だってきっと大丈夫(サッカー初心者)。
ではさっそく銀河のワールドカップの世界をのぞいてみたいと思います。
タイトルに「銀河」と付いているせいで地球どころか宇宙が舞台のスペースワールドカップ開幕か?とイナズマイレブン的サッカーワールドが広がっているのかと身構えましたが、舞台は地球で日本で東京で美咲公園のベンチの上。一人のしょぼくれたおっさんが、ビール片手に何をするでもない時間を過ごしていました。この人物が今回の主人公、元Jリーガーの花島勝でございます。お話は主にこのおっさんの視点から語られ、偶然見かけた小学生と、それをきっかけに集まった少年少女でサッカーチームを結成して遥かな高みへ邁進していく事となります。
まぁ、プロのサッカー選手を夢見る少年のもとに現れた飲んだくれた無職のおっさんが実はコーチング資格を持った元プロのサッカー選手でしたなんていう出合いは、やり過ぎにもほどがあるという感じの都合がいい展開ですが、今回はおっさんが主人公だから問題ないよね。サッカーをプレイしている子供を見かけると、無意識に将来性があるか考えるのは指導者の立場だから自然な事。そしてたまたま出会えた才能ある小学生がどこまで伸びるのか賭けてみた時が、このお話の醍醐味の始まりでございます。目指せサクセス!ストーリの広がりは無限大で未知数だ!
弱小チームの雑草魂で強豪チームへと立ち向かう物語は今も昔も胸が熱くなるものですが、今回は人数不足でチーム解散寸前と0からのスタートと、実に手の掛け甲斐のあるシチュエーションです。三つ子の悪魔と呼ばれるくらいサッカーの才能に秀でた降矢3兄弟、みんながいなくなっても一人チームで頑張る太田翼くん、女の子サッカーチームの実力者 高遠エリカちゃん、ついでにサッカーは下手だけど友達の西園寺玲華ちゃんを連れて来て、男女関係なくかき集めて出来た新生・桃山プレデター。話の起点としてサッカーの天才が加入するのはいいのですが、平凡なサッカー少年もサッカーがへたくそな女の子も混ぜちゃって、単純にはこの先の道を楽に進むことが出来そうにない展開に、期待ワクワクと若干の不安が入り混じります。楽しくなってまいりました。
序盤は活躍が目立つ降矢3兄弟に意識が向きがちですが、結構最初の方から平凡少年の太田翼くんと太め系女子の西園寺玲華ちゃんが気になっていました。だってサッカーが上手い人間ばかりこの世にいるわけないじゃないか!下手な人間だって頑張って生きてるんだぞ!とサッカーが下手な人間としては応援せざるを得なかったのです。むしろぼろぼろに使い捨てたら作者の人間性を疑うよ?くらいのアグレッシヴなオフェンスを仕掛けて読んだのですが、そこは愛情たっぷりのキャラクターの使い方をどの子供にもしてくれたおかげで大満足。どの子供もそれぞれの個性で見せ場が用意されていて、最後までみんな生き生きとサッカーをプレイする姿が見れます。例えばですね、個人的になんですが、スピードが売りの高遠エリカって子がいるんですが、何度も「高遠」じゃなくて「高速」エリカと読み間違えました。だって何度も足の速さで相手選手を翻弄する場面が出てくるんですもの。間違っちゃいないと最後の方には開き直って、高速エリカでいいやと思うようになりました。よく似合う活躍をしてくれます。
お話の方向性として細かい事はネタばれになるんで言えませんが、登場人物が小学生のままでいる内に全ての物事は展開していきます。ですから期間は短いのですけど、その中で考えられる最高の舞台を作者さんは用意していました。小学生で結成された新生・桃山プレデターが地元の大会で活躍するくらいの予想は簡単でしょう。大会に勝ち進んでいけるところまで行きたいと思いますが、急ごしらえのチームが長年の強豪チームを全て倒しきるのも展開として乱暴です。だからと言って負けて何度も再戦するほどの時間はお話には無いし、作中で言っている頂点を目指すというのがどこにすればよいか難しいな…と思っていたら、クライマックスは想像を絶する大舞台。限られた時間で辿り着くにはこれ以上ないという対戦が決まった時は、正直鳥肌が立つほど興奮しました。タイトルに「銀河」って付いてますんで予想は出来るんですが、実際始まるまで信じられるものじゃないですし。そしてネタばれ覚悟で叫びます。玲華が怪我するってわざとらしすぎるよ!そんで交代が花島って出来過ぎの展開!もう、やり過ぎ!ダメだろうそんなことしちゃ…正直よくやった!
サッカーのプレイ描写は足のさばきやプレイ時のポジションの説明がふんだんに盛り込まれ、読みながら今のプレイがどんな状況なのか分かりやすくなっています。知識があるなら、そうそうこのプレーならいけるんだよとリアルタイムのようにお話にのめりこめますし、知らなくても、今どうなってるの?え、さっきのキック良くなかったの?マズイじゃん!と試合の白熱を感じ取ることが出来ます。
私事ですがこの年末の時期、親戚の方と接する機会が多くなりまして、中学生のいとこに久々に顔を合わせてきましたよ。学校じゃサッカーをやっていまして、高校はサッカーが強いところに行きたいんですと。おう、大いに頑張ってくれたまえ。でも銀河一を目指さないかと言ったら変な顔をされそうですね。小説はちょっとやり過ぎですけど、それが物語のいいところ。身近なサッカー少年達はどんな夢を見てるんでしょうかね。