隻眼の少女

隻眼の少女 (文春文庫)



私の大好きなミステリー作品に「夏と冬の奏鳴曲」というものがある。作者の名前は麻耶雄嵩という。
好きな作者の割りに、ブログ開設6年目にして初登場です。いや、好きなのは嘘じゃないって!
特にジャンルを意識していなくても読んでいる小説の量が多くなれば積み重なってくるもので、ミステリーだけに絞っても私が今までに読んだ冊数は100冊くらいは簡単に超えます。しかし読んではいるものの、基本的に本格ミステリー特有の独特な雰囲気があまり好きではないという厄介な嗜好を抱えています。あのトリックの為だけに作り出された登場人物たちの魅力の無さ!犯人に良いようにコロコロされるおばかさ加減!こうなると探偵が出てきたりトリックがどうのこうのという話になっても「いかさまよ!」とか「こじつけ過ぎよ!」のシュプレヒコールが脳内で響いて手が付けられません。そんな前フリでこの作者さんの事を紹介しようとすると、あたかも情緒豊かな登場人物たちが織り成す比類なきヒューマンドラマの名手なのかなと予想されるかもしれませんが、実のところはいかさまっぷりが半端なくて気持ち良いくらいのミステリーを書く味のある作者なのです。理路整然と推理を披露して犯人を導き出す名探偵を見て「毎回正しいっておかしいって。絶対冤罪で捕まえてるのあるって」くらいのひねくれた見たかをしている人にはストレートでツボに入ります。作者が描いてきた数々の探偵たちの体の張り方とか好きですね。
え、何キワモノなの?と聞かれればちょっと否定できない作者さんの最近の作品「隻眼の少女」より本日はお送りします。しかしそんな言い方をしていても、トリックの部分は病的なまでにガッチガチに固めてくる人でもありますのよ。
んま!女子高生探偵が主人公だなんてあざと過ぎるわ!美少女で釣り上げような魂胆が見え見えで虫唾が走るわ!(でも買っちゃう)、みたいな拒否反応が出る人がいるかもしれませんが大丈夫。ミステリーやホラーと相性の良いセクスィーな美少女は過去の作品で出てきていましたが、割と容赦ない扱われ方をしていましたので思いっきり感情移入して後悔すればいいと思います。ある意味残念美人は約束されたようなものなのです。
お話の舞台は無名の温泉宿がある程度の小さな村。もはや人生が辛すぎてセンチメンタルブルーで自殺しに来た大学生が「俺、死ぬなら初雪の日って決めてるんだ…」とナルシシズムにキメていると、古臭い着物(水干という)を着たコスプレ?と思わんばかりの少女と出会うという超常現象に遭遇します。やがて村では凄惨な殺人事件が発生し、少女の素性が母親の意思を告いだ由緒ある探偵であることが分かります。冴え渡る少女探偵の頭脳。しかし次々と起こる殺人事件。姿が見えない狡猾な犯人との対決が手に汗握るミステリーです。
始めは割りとふつーの、オーソドックスな推理の過程を踏んでるなと思っていたんです。みかげさんマジあざといですけどかわいいですってか割とポイント高いよオイ!とか適当に楽しんでいたんです。そして事件は解決します。本の半ばほどで。
どういうことでしょう。割と真面目にミステリーをしていた話が半分ほどページを残して終わってしまいました。こりゃあ良い予感しねぇなぁオイ!
残りで何が起こるのかはもちろん書きませんが、こいつもなかなかのいかさまっぷりですぜぇ!参っちまいますぜ!
結構シリーズものが入り乱れている作者さんの中で、完全新作お母さんも安心。ひねくれ者には相変わらずたまらん味わいがありますね。