ゴールデンスランバー (読み終わり)

ゴールデンスランバー (新潮文庫)


くやしいのうくやしいのう。始めはあんまり設定に興味が惹かれなくて、でも伊坂幸太郎さんだからしょうがねぇ今まで面白い本を書いてくれたお礼のお布施代わりとでも思って買うか…なんて感じで読み始めたら面白くて続きが気になってしょうがないのこれが。くやしいのうくやしいのう(満面の笑みで)
ケネディ大統領暗殺事件よろしく日本の首相がパレード中に殺されて、適当な犯人にでっち上げられた主人公が必死に逃げる――― というのがこのお話の全てですが、まあこれだけじゃね、フィクションとしても目新しさなんてのも感じられないあるある君な設定でちょっと退屈そうだなーという感じだったんですよ。
実際お話が始まってもワイドショーを見ている視聴者みたいな感覚で、事件の内容なんか碌に伝わって来ないしどうでもいい世間様の憶測が飛び交うばかりで正直出来たならチャンネルを替えてましたよホント。でもそれって作者の演出だったんですよね。その後すぐに20年後に飛んじゃってうやむやになって勝手に事件が終わっちゃうんですけど、そこまでが一般視聴者の辿り着ける真実。でもこの本を読んでる読者はさらにその後事件の最中へ時間が戻って、犯人に仕立て上げられた男の真実の続きを追体験できるって寸法なんですよ。特別な人間だけが知る隠された真実ってやつですよ。そしたらもうダルダルだった気分が面白いように高揚するのが分かりまして、まんまと作者のテクニックにやられた感じが強くてくやしいんですがでも面白いんですよくそぅ!
もうお話を魅せるテクニックが半端ないです。こんなのリアルじゃないとか都合が良過ぎるんじゃないかとか、そういった要素がいっぱいあるんですが、それらを全部上手ーく配置して読んでいるこっちが感心するほど面白くしてくるんですよ。例えばどんなに都合が良くったって、ピンチの時にはやっぱりヒーローに助けに来て欲しくなるもんじゃないですか。そこを伊坂さんは見逃さない感じです。予想はそんなに裏切らないかもしれないけど、期待にはしっかり応えてくれます。
だからもう展開に一喜一憂する度に作者の手のひらで踊らされまくってんな自分ーと思うと、何度でも言うけどやっぱりくやしい!そして何度でも言うけど面白いの!
あと作者だけでなく巻末の解説者も侮れません。読み終わった後に残った私の結末に対するもやもや感を見越したかのような、的確で正確な解説をして下さっています。もう他の人と結末の是非を話し合う必要性を感じないくらいです。解説者にまで手のひらで踊らされている感じでした。く、くそぅ!